10.演劇の効用~1~
役作りのとき、与えられた役のキャラクターを掘り下げるという作業がある。
それはその役の、脚本に書かれている部分はもちろんのこと、それ以外の書かれていない部分をも想像するということ。
例えばその役が生まれた時代、場所、家庭環境、そこで培われた性格、またそれ以前に生まれ持った資質みたいなもの…などなど。
それらを想像した上で、脚本に描かれているものと共に、その役をその作品内で活かしながら演じていく。
実はこれ、この作業、現実の日常生活の中でも活かすと、随分自分が楽になれるのだ。
社会に出ると今まで以上にいろんな人と出会い、時に苦手な人とも接しなければならない。
何とかその場を上手く乗り越えたいのだけれど、どうしても目の前にいる苦手な人を受け入れることが出来ず、怒りすら込み上げて来るときもある。
そんな時、先の役を掘り下げて想像したように、その人の背景をも想像してみる。
この人はもしかするとご両親か身近な人に、いつも誰かと比較して育てられたのかもしれない、とか。
もしかするとほとんど褒められずに、叱られてばかりいたのかもしれない、とか。
そうすると何だかその人に向けられた怒りの焦点がどんどん拡散されて、怒りの度合いが薄まって行くような気がするのだ。
もちろんその人に怒りの感情を抱いたその瞬間は、とてもそんな余裕なんてないかもしれない。
けれど少し時間を置いて、その人のこれまでのことに想いを馳せると、その人の違う側面にも気づくことが出来たりして、自分の感情も好転することが多かったような気がする。
こうして考えると、人ってつくづく奥深いなぁって思う。
また一方で、実は自分と他人は合わせ鏡、と感じることがよくある。
対、役であれ、対、他人であれ、結局は自分自身と向き合うことになる。
自らの心を深く掘り下げる作業は、時に痛く厳しい作業だったけれど、実はそれは自分が自分らしくあるために自分を模索する貴重な体験だったように思う。
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