33.お達し
12月に入って間もない頃だったと思う。
社長から全社員にお達しが出た。
全員、自社株を50万買うように、と。
新入社員においては、もしそれが出来なければ、その直属の上司がその50万を買うように、と。
その場合、もちろん上司は元々自分の買うべき50万の株があるので、全部で100万の株を買うことになる。
その時その場が一斉に凍りついたのを、今でもはっきり覚えている。
その日は寮に帰って、2階のOさんの部屋にみんな集合した。
‘みんな’と言っても実はこの時点で、既に寮からは10人中3人は辞めていなくなっていたのだけれど。
さすがに50万って、ねぇ。
お給料削られて、親から仕送りまでしてもらっているのにねぇ。
一体どうすれば良い?
などなど、みんなで途方に暮れつつ、夜遅くまで話し合った。
その結果、とりあえずみんな地元の身内や親に相談することになったのだが、さすがにどの親も難色を示し、その自社株を買った寮生は一人もいなかった。
一方で、身近で驚くべきことがあった。
何と、同じ部署の東京在住の同期の子やその上司が、その株を買ったのだ。
特に同期の子は、都内の自宅がたまたま美容室で会社の取引先でもあったため、言われた株の2倍(100万も!)も買ったようだった。
上層部の上司たちがそうするのは想像出来るけれど、同期の会社を救おうとするその意識の高さに、私たち寮生は心底驚いた。
ただ、彼女たちのそんな会社に対する意識の高さとは反対に、その後経営状態の回復の兆しは一向に見えず、それどころか行く末のない未来が否応なしに見えてきた。
結局私はその会社を、年が明け、1月いっぱいで辞めることにした。
またその時点で他の寮生たちも、同じような決断をした。
中を開くと
1月に入るとどうやら、糸が切れた凧みたいに、よく会社を休んでいたようだ。
心身ともに疲れ切っていた模様。
なのに、この場に及んで、まだ東京でがんばりたかったのか?!
何をそんなに生き急いでいたんだろう…。
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