34.決心~帰省するまで
会社側からの、今考えてもあり得ないお達しの一件で、1月いっぱいで会社を辞めることにした。
その後は、普通だったら早々に荷物をまとめて帰省するだろうに、私は辞めた直後から1週間の間に、お芝居を3本も観に行った。
上京して約1年弱、せっかく上京したのに、仕事をしている間は1度もお芝居を観に行ったことがなかったのだ。
もともと「東京のお芝居をたくさん観てみたい」という夢があったのに、いかに働いている間、自分がいっぱいいっぱいだったかを改めて痛感した。
当時は小劇場がブームになっていたこともあって、メジャーなところでは第三舞台、一方、下北沢へは、まるで芝居小屋のような小さな舞台を観に行った。
ずっと観たかった東京のお芝居をやっと観ることが出来て、とても満たされた。
と同時に、どうしたことか突然、学生時代のお芝居熱が再燃したような気持ちになった。
観るだけではなく、やはりあの頃の、みんなで一つの舞台をつくり上げる楽しさ、演じる楽しさをもう一度味わいたいという気持ちに。
そんなとき、久しぶりに就職で一緒に上京したMちゃんに会った。
違う会社に入ったMちゃんは、当時しっかりその会社でがんばっていた。
そんなMちゃんに私の諸事情を話した上で、今後の自分の身の振り方を相談した。
すると、とてもMちゃんらしい答えが返ってきた。
まずは東京でまた仕事を探して、たとえアルバイトでも良いからプロアマ問わず、どんな小さな劇団でも良いから、入ってやってみるのも良いんじゃない?と。
Mちゃんには、私の持病が当時いかに悪化していたか、全く伝えていなかったのだ。
なのでもちろん地元に帰るのも良いけれど、せっかく上京したんだし、試してみることも今後の一つの選択肢に入れて提案してくれたのだと思う。
そこでふと頭に浮かんだのが、大学時代に亡くなった演劇部のT先輩のことだった。
大病を抱えながらも、自分のやりたいことにとにかく一途だったT先輩。
私には、あれだけのエネルギーが、あるのだろうか、と思わず自問した。
また、当時自分の体調はあまりにも酷く、そんな状態で自分のやりたいことをやったところで、きっと行き着く先は見えていると思った。
それこそ最終的には、周りをとても悲しませることになるだろうなぁ、と。
私はT先輩のように、命を掛けてまでお芝居に情熱を傾けることが出来るかというと、正直そんな自信はまったくなかった。
というより私は、ただ単にお芝居が好きなだけで、決してそれで有名になりたいとか、どうしてもプロになりたいとか、そういう欲が一切なかったのだ。
そんな良い意味での貪欲さや強い意思みたいなものが、あまりにも自分には欠けていること。
それはどう考えてもこの東京で1人、生きて暮らしていけるはずがないと、当時その時点で思った。
好きでどうしてもやりたいのなら、地元でも出来るじゃないか、と。
このようにして、私には会社を辞めた後、そのまま東京に居続ける理由がなくなってしまった。
なので、遂に地元に帰る決心をした。
↑画像はお借りしました。
下北沢の雰囲気が、どことなく地元のそれと似ていて、行けば何となくほっとした。
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