38.楽譜係
楽器店で配属されるに当たって、実はその楽器を演奏することは出来なくても、ある程度割り切ってその仕事に携わることが出来る部署がある。
それは楽譜係とCD係、そしてプレイガイドの担当だ。
ただやはり、自分が演奏出来る(ここでは趣味や習い事止まりではなく、それ以上にという意味)楽器やその楽譜については、自ずとその専門性も高まる。
なので社内には音楽学校を卒業した既存のスタッフたちも多く、またその人たちは、かつて自身が専攻していた科目の部署に配属されていた。
そんな中で、当初私が入社したときの楽譜係のリーダーは何と、全く音楽に関係のないところから入社されていた。
おまけに楽譜を読む知識そのものも、義務教育で受けた音楽の授業止まり。
彼女に今まで演奏したことのある楽器について尋ねたとき、
「うちが出来るのは、叩きもん(ドラムやトライアングル、カスタネットなどの打楽器)くらいかねぇ~。」
とのほほんと答えられたのを、今でもはっきり覚えている。
正直それを聞いたときは驚いたが、その一方で異業種から転職した私は、そんな彼女の存在に随分救われたものだ。
ちなみに楽譜係は、音楽大学を卒業した2人と、全く音楽とは関わりのない学校を卒業後、入社された先のリーダーと、異業種から来た私の計4人から成っていた。
あと同じフロアーにはCD係4人とプレイガイド2人がいた。
この10人で1階のフロアーすべての仕事を、全員で廻すことになっていた。
それぞれ各々が本当は担当を持っている一方で、同じフロアーに居ると、どうしても自分の担当以外の仕事にも関わらざるを得なくなってくる。
レジを中心に、楽譜係がCDを、CD係が楽譜を、プレイガイドが楽譜を、などと、窓口的な仕事まではすべてのスタッフが出来るように、常に鍛えられていた。
また当時この楽器店は、地域で一番専門性が高かったため、学校や団体、プロアマ問わずいろんなジャンルの演奏家の方たちや、先生たちへの応対も膨大だった。
その上近隣の楽器店への楽譜やCDの卸し業務までも担っていて、そこに一般のお客さまもご来店となっていたので、一日のみんなの仕事量は、膨大だった。
担当の業務にやっと取り掛かることが出来るのが、夕方くらいから、ということも多々あり、繁忙期に至っては夜の9時10時ということもあった。
入社して2~3年くらいまでがピークで、その後会社の母体が変わるまで、ずっとそんな状態が続いた。
当時はまだインターネットが普及していないこともあり、楽譜やCDも店頭から買う人がほとんどだったのだ。
さて、こんなに激務だったあの時期を乗り越えられたのは、ここに来てもやはり人間関係。
特に楽譜係4人のメンバーは、みんな個性が強いながらも何故か仲が良く、上手く噛みあっていたのだ。
また日々の激務によって、どんどん結束が強くなったというところもあった。
そしてそんな中でも、リーダーだったNさんとは日が経つにつれ、とても親しくなって行った。
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