46.遂に
自分でインスリンの量を勝手に減らしながら通院する日々は、精神的にとても厳しかった。
が、それでも自分の身は自分で守るという覚悟が出来たことで、何かが吹っ切れたのも確かだった。
ただそれと同時に、インスリンという薬に対してどこか不信感のようなものが芽生え始めたのもこの頃だった。
インスリンと自分の身体との違和感が、どんどん大きくなってきているような、そんな気がして来たのだ。
打っても打っても的を得ない、まさにそんな感じだった。
そして低血糖という副作用に対して、今まで以上に強く恐怖を感じるようになっていた。
この低血糖、これまで幸いなことに昏睡で倒れたことはなかったものの、いつも意識が遠のくギリギリのところで、何とか対処出来ていた。
けれどそこから跳ね上がる血糖値を、今度は適度に下げることがいつもとても難しかった。
なのでその恐怖感がいつの間にかどんどん上書きされ、後々に至っては、高血糖にもかかわらず、インスリンを打つこと自体への恐怖感が先立つようになっていった。
そんなギリギリの精神状態でありながら、何とか通院していたある診察の日、I先生からある資料を見せられた。
そこにはIクリニックに通う糖尿病患者のいろんなデーターが記されていた。
その中で、ある円グラフを指しながら言われた。
「うちのクリニックの患者は、ヘモグロビンA1cが6%から8%代の人がほとんどで、あなたのような数値の人はほとんどいない」と。
そう言われた時、何か自分の中でとても大きなものが抜け落ちて行ったのを感じた。
またそこで、これまでも何度か訴えてはいたけれど、今まで自分が思っていたこと(明け方の低血糖のことなど)を再度I先生に話したところ、
「今まで私は何千何万という患者(のデータ?)を診てきたのだから、私の指示通りにして(血糖値が)下がらないはずがない。」
というようなことを言われた。
その時遂に、「あ~、もうここへは来れないなぁ。」と思ったのを今でも覚えている。
当時のことを振り返ってみると、I先生はその時決して悪気があっておしゃった訳ではないと思う。
かつて上京時にFAXで診断してくださったり、帰省して初めての診察の時には、そのI先生の熱い眼差しに、とても誠実なものを感じたくらいだったのだから。
恐らくご自分の実績に自信があったからこそ、そういう言い方になってしまったのではないかと。
けれど当時若くて精神状態ギリギリだった私は、言われたことを真正面から受け止めた。
まず私のような不良患者は、この病院へ来る資格がないと。
そして何千何万という患者のタイプに入ることが出来ない(I先生の指示通りに収まり切れない)自分は、もうI先生から匙を投げられて当たり前な患者だと。
結局当時の記録を見ると、この日でパッタリすべての記載が止まっている。
そう、この日を境に、遂にIクリニックへ行けなくなってしまったのだ。
ところでここでもう一つ、とても恐ろしいことが読み取れる記録が…。
最後に通院した日から遡った3か月の間に、それまで変わらなかった体重が一気に約5キロ減っている。
実はこの時期、かつてこれで最後にしようと思っていたことが、再度出来ることになったのだ。
ただそれは今度こそ、それが最後になることだった。
まさに命懸け。
この頃から当時の自分は、まるで生き急いでいるかのような毎日を送っていたような気がする。
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